ふと目を閉じれば、何時でも鮮明に思い起こせる。障子越しの淡い光、藺草の香り、鶯の微かな鳴き声。
驚いた様に目を見開き僕を見て、其れから視線を外した草太。戸惑いに覚束無くなる口調。
僕は何が為たかったのだろう。
姉の着物を纏う時、今迄は感じなかった緊張感に襲われた。草太に軽蔑の目を向けられや為ないか、と。
けれど彼の反応を見て、僕は安堵した。安堵処か、満足さえ為た。
鮮やかな紅色は彼の脳裏に焼きついたことだろう。 そして、不釣合いな其れを羽織った僕の事も。
道が分かれる事は、薄々感付いていた。其れでも何処か、彼の何処かに根付いていたいと思ってしまった。
彼は、僕が此処に居る事を知っているのだろうか。
書きかけた手紙は片手で数えられない程になった。書き出しはいつも同じ、そして手が止まる場所も。
「君は、」
僕を忘れて仕舞っただろうか。
渡す処か書き上げる事も出来なかった手紙を胸に、僕は操縦桿を握り締めた。
『さよなら、あなたはとても優しい人だった』